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2015-03-11 (Wed)
ツイッターの60分一本勝負のやつです。
https://twitter.com/one_utau/status/575619723611652096
御蔵イルイリの誕生日と聞いて即興ネタ。
おめでとう!!!


君に贈る一番の

 背の高い生垣を軽々と飛び越えてくる、小柄な影。長い銀色の髪がふわりと宙を泳いだ。
 上から襲来したその影に腰を抜かしそうになりながら、持っていた本をしっかりと胸に押し付け、コヨーテは何とか転ばずに道の端に避けることに成功した。警戒した耳と尻尾が毛羽立つ。
 スタッと軽快に着地したのは、銀色の長髪のひと房を三つ編みに編み込んだ女の子だった。赤いスカートをしっかりと押さえ、大事なところはきちんとガードしている。さりげなく大した運動神経である。
 見知ったその人物に、コヨーテの尾から余計な力が抜けていく。尾をゆらゆらと揺らしながら、コヨーテは「イリちゃん?」と尋ねた。
 少女がはっと顔を上げて、綺麗なルビー色の目がコヨーテを見る。
「こ、コヨーテちゃん! ごめんね、気が付かなかった! ぶつからなかった?」
「大丈夫だったから気にしないで。イリちゃんはどこかへ急いでるの? そんなところから飛び出してくるだなんて……それとも迷子? 入り口なら向こうだよ」
 と、コヨーテは石畳がまばらに続く細道を指さす。石畳の反対側は草木がうっそうとしていて、誰も立ち寄らないため、ひっそりとしている。コヨーテはすぐ横の建物――歌ノ森図書館で借りた本を、この静かな場所まで読みにくることがあったが、誰かと遭遇するのはこれが初めてだった。
 しかも、イリはどちらかといえば大人しめのタイプの子で。生垣を超えてこんなところに現れるだなんて、よほどの事情があるのだろうと思われた。
 イリはこうしてコヨーテと言葉を交わしている間もそわそわと落ち着かない様子だった。周囲に視線を巡らせつつ、小声で「あのね……」と発音しかける。
「イリーッ!」
 聞こえてきた大声に、イリの肩が大きく跳ねた。物音を立てずにさっと植物の隙間に身を潜らせると、コヨーテですら一瞬どこへいったか分からなくなる。コヨーテにはよく利く鼻があるので、見失うことはなかったが。
 生垣の上から、バッと人影が躍り出る。イリが通ったのとまるで同じところから降ってきたのは、今度は少年だった。
 ふわりと銀色の三つ編みが舞い、コヨーテは強い既視感を覚える。つい先ほど見た光景と目の前の光景が重なる。
 それもそのはず、目の前に現れたのは、イリとよく似た容姿を持つ少年、イルだった。
 スカートを履いておしとやかにしていれば一卵性双生児と見間違うばかりの彼らだが、今のイルはズボンの裾を折って腕をまくり、動きやすいワイルドな格好をしていた。明らかに身体を動かすための装いである。
 イルは傍にいるコヨーテには目もくれず、何かを必死で探しているようだった。事情を知らないコヨーテでも、彼が探しているものは容易に想像がつく。コヨーテは「彼女」が隠れている茂みにはできるだけ視線を向けないよう気を付けながら、イルの顔をのぞき込む。
「どうしたの?」
「うわっ! ……と、あんたは確か、ツキとよく一緒にいる」
「つ、ツキ君は関係ないじゃない! ……そうよ、コヨーテよ」
「ちょうどいいところにいてくれた。この辺でイリを見なかったか?」
「イリちゃんを? 探してるの?」
 白々しくなってしまわないよう、コヨーテは持っていた本で口の半分を隠す。あまり演技には自信がない。
「ああ。どうしても今日中に見つけたいんだが……」
「それなら」
 コヨーテはすっと石畳の方に人差し指を向ける。
「あっちの方に」
「そうか、ありがとう!」
 イルはそう言うなり、石畳に添って全力で走り始めた。整備されていない石畳はデコボコしていたが、イルは器用に出っ張った石の上を飛び超えて、あっという間に図書館の入り口の方へと消えていった。
 コヨーテは鼻を小さく動かし、彼がすっかり行ってしまったことを確かめる。それでも念のため声を潜めながら、「行ったよ」と告げる。
 茂みががさごそと動いて、中からイリの銀色の髪が出てきた。
「ありがとう、コヨーテちゃん。……助けてもらっちゃって」
「気にしないで。それより、どうして逃げ回ってるの?」
「それは……」
 イリは言い淀んだが、コヨーテに一度助けてもらっている身。すぐに何かを決意したようにうなずき、コヨーテを手招きする。
 コヨーテは長いスカートの裾を持ち上げてイリの傍に屈み、顔を寄せる。
「実は……」
 コヨーテの耳にひそひそと紡がれる言葉。それを聞いて、コヨーテはふわりとほほ笑んだ。

 ひゅん、と春の風が頬をかすめていく。鼻に入り込んでくる花の香りを胸いっぱいに溜めて、コヨーテは風を切って走る。
 背中にはイリがしっかりとしがみついていて、コヨーテのこげ茶色の髪に顔を押し込んでいた。そうしないと風が強すぎて前を向いていられないのだ。
「ま、待てーッ! イリ、止まってくれー!!」
 後ろから追いかけてくるのは、イルの声。運動神経の良い彼でも、コヨーテの足の速さにはまるで敵わなかった。
 コヨーテは少し身を屈めて、バネのように身体を伸ばし、目の前の堀を軽々飛び越える。人間には少々骨の折れる幅のそれも、コヨーテの足ならばひとっとびだ。スカートの裾が風にさらわれてひらひらとはためき、コヨーテの細い足首を見え隠れさせる。
 2対1では不利と見て、イルの方も助っ人を頼んだのだが――頼んだ相手の相性が悪かっただろう。そこら辺を歩いているところを拉致られる形で連れ出されたツキ少年は、愛しい子の足チラを見てすっかりのぼせあがり、イルからさらに数十メートルほど離れたところで倒れていた。
 イルがツキを心配して振り返った隙に、コヨーテは近くの林にさっと身を隠してしまう。イルがそのことに気付いた頃にはもう遅い。
 コヨーテたちを完全に見失ってしまったイルは、遠回りして堀を渡り、あてずっぽうに茂みを掻き分けていた。
 太い枝の上にまたがり、イリとコヨーテは密かに目を合わせる。二人とも黙ったまま口元だけで笑い合い、そしてイリは深くうなずいた。
 枝に生えていた蕾を、コヨーテがわざと落とし、幹を打つ小さな音が鳴る。その音をしっかりと拾い、イルはすぐにコヨーテたちのいる木に駆け寄ってきた。
 イルが真下にやってきたその瞬間、イリは木の枝からバッと飛び降りる。
「イル!」
 イリの声に、イルは勢いよく顔を上げ、見開かれた赤い瞳に、イリが映りこむ。風圧で掻き分けられた前髪から、イリの満面の笑みがのぞいていた。
 イルは声もなく驚いて、反射的にイリを抱きかかえる。イリの身体はイルの腕の中へと正確に着地し、イルは何とかその場に踏ん張った。ちょうどお姫様抱っこみたいな形になる。
「あのね、イル!」
 イリはイルの肩に手を置き、息を切らせて大急ぎで言う。
「誕生日おめでとう!」
 その言葉に、イルの目はこれ以上ないほど開かれて、頬が瞳の色味負けないくらい赤々と染まっていく。イリの頬にもその赤が移って、薄く色づいていた。
 イリは驚くイルを満足げに眺めて、イルの頭を抱きしめる。
「ふふふ、今年こそは先に言えたわ! イルったら、いつも一番にわたしの誕生日の方を祝ってしまうんだもの!
 わたしだって真っ先にイルの誕生日を祝いたいの! わたしだってイルのことが大切で大好きなんだもの!」
 イリはイルの肩をぎゅうと抱きしめ、何度も何度も「おめでとう!」を送る。イルは感情のキャパシティがオーバーしてしまって、口をパクパクさせていた。
 でも彼がとても喜んでいることは、傍目にもよく分かる。イルは目に涙をにじませて、真っ赤になって、それでもふにゃふにゃになった顔で笑っていた。
 コヨーテは枝の上から、二人の誕生日を見守っていた。あいにく、プレゼントは用意できていないけれど――せめてもの祝福に、枝を揺らして紙吹雪がわりの葉っぱの吹雪を二人に贈った。


おわり
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