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2008-12-30 (Tue)
KAITO/MEIKO/和音マコ/エセ戦記/和風ファンタジー

 閼伽の国の辺境にある、咲音の地。隣国との戦争の危機に瀕する中、当主の芽衣子はあえて戦いの道を選んだ。愚かな選択であっても、魁人は幼い頃から共に育った主の決断に従い、ついていく。
※わんだらPの「愚足武者」をイメージして書きました。戦記ものなんてさっぱり分からないので、舞台も文化も戦法もテキトーですorz

「続きを読む」から本編へどうぞ。
 大の男の大声が、部屋のふすまを打った。
「本気で美土里の国と戦をするつもりか!」
 男は余程興奮を抑えることができなかったようで、声を荒げるばかりか片足を立てて腰を浮かしかける。ふすまの横に控えていた鎧姿の青年が、男を制するかのように足を前に出した。その動きで、男は一瞬忘れかけていた現状を思い出す。
 ここは地方の代表が集う場だ。他の代表者の目もあって男はそれ以上立ち上がることなく、一度咳払いをして腰を落ちつける。
 それでも、男の視線にはなおも鋭さが残っていた。気に入らない、という思いを隠そうともせず、一人の代表者に注ぐ。視線の先、入り口のすぐ傍に座っていたのは、真っ赤な着物に身を収めた少女であった。
 集う代表者の中でも、彼女は明らかに異質。年が飛び抜けて若く、華やかさは一流の遊女にも引けを取らなかった。赤い衣がなければ、誰も彼女が地方を管理する者だとは気づかないだろう。
 しかし男の視線を受けてもまったく動じない姿勢は、彼女の代表者としての器を明らかにしていた。むしろ小さな笑みさえ浮かべ、彼女は言う。
「何度も申します。他の地方の手助けは無用です。私の治める咲音の地で必ずや美土里の国の侵攻を止めてみせましょう」
 かすかなざわめきと共に、今度は複数の視線が彼女に集まった。一瞥せずとも冷ややかな色が混じっているのが分かる。
 美土里の国は農地が多くを占める地とはいえ、大国だ。豊かな資源が支える兵力は頑強で、ぶつかり合えば容易に敗れるものではない。もちろん国として戦に望めば負ける閼伽の国ではないが、辺境の咲音の地だけとなれば話は別である。
 お粗末な兵力に特色のない土地柄。勝てる要素はほとんどなく、他の代表者が彼女の言葉に納得できるわけもなかった。先ほどから何度も「本気か」という問いの壁が彼女を阻んでいた。
 彼女はどの言葉にも意識を傾けず、ただまっすぐに台座を見据えていた。薄い幕の奥、あぐらをかいて鎮座しているのは、閼伽の国の王であった。
 他の地の者が「手を貸す」と言ったところで、そんなものは咲音の地を占領するきっかけ作りに過ぎない。出兵した軍隊にそのまま咲音の地を襲わせ、吸収するのが狙いだろう。それならば、彼女は故郷のために無謀な戦いを選ぶと、心に決めていた。
 王がしばし黙すと、その場も自然と静まりかえった。王の言葉に横槍を入れる気概のあるものなどいなかった。
 彼女を除いては。
「何か問題でもありましょうか」
 一地方の管理者と王。身分差を恐れぬ、強気な物言いに、周りの代表者たちは息を飲んだ。下手をすればこの場で血を見かねない。
 緊張が走る中、鎧の青年が刀に手をかけた。それとほぼ同時に、王が口を開く。
「よかろう」
 思いのほか若い、けれども王にふさわしい威圧感を持った声が、言う。
「咲音守、咲音芽衣子に、美土里の国の侵攻阻止を一任する」
 口々に漏れるざわめき。動揺を隠し切れなかった先ほどの男が、思わず「しかし」と声を上げていた。王が厳しい口調で「黙れ」と言う。
 王が制止しなくとも、男はその次の言葉を発することはなかっただろう。現に男は、息をすることさえ忘れていた。
 鎧の青年が刃のように研ぎ澄まされた目で、男を射抜いていた。男も一応戦場に足を下ろしたことがある身、それが殺気であることは理解できた。
 気づくのが遅すぎたくらいだ。彼は絶えず彼女の行く先を阻むものを切り捨てる覚悟でこの場にいたのだから。
 王の前で刀を抜けば死罪は免れないであろう。だが男が彼女にたてつけば、この青年はためらうことなく刀を抜いた。そう確信させる視線だった。
 青年の不届きな動きに気づいたものは他にもあっただろう。しかし彼女は平然と言ってみせる。
「ありがとうございます」
 そして、うやうやしく頭を垂れた。それが一切の反論を断つ一振りとなり、これ以上口を挟む者は誰もいなくなった。

 芽衣子は屋敷についてから、真っ先に鎧の青年をどつき倒した。
 入り口を抜けた所、傍には迎えに出てきた家の者たちが控えていたが、構いはしない。頭部に打ち込まれた一撃に重心を崩され、青年は部下の目の前で盛大にすっ転ぶことになる。鎧が飛び石を叩き、小気味良い音が鳴り響いた。
 かろうじて死守した顔面を上げて、青年が口を開きかけるが、その前に芽衣子はきっぱりと言い放つ。
「馬鹿じゃないの?」
 精神的に突き刺さった二撃目に、青年は再び頭を落とす。ちょっとだけ泣きそうになったが、さすがに人前でそのような失態は見せない。
「王様の前で殺気立てるだなんて、わたしの躾がなってないと思われるでしょ」
「でもそれは」
 芽衣子のため、という言葉は言わせてもらえなかった。芽衣子もそんな反論は予想出来ているのだ。最後まで言う前に、鼻で笑われる。
「は、あれくらいの抗議でわたしが窮地に立たされるとでも思ったの? どうせあいつらは自分の部屋に引きこもってぎゃーぎゃー言ってるだけなのよ。そんなやつ、ちょっと強く言ってやればどうにでもできるわけ」
 次から次へと投下される言葉に、青年は言い返す言葉をなくした。唇を尖らせながらも大人しく黙り込んで、立ち上がる。
 青年も、芽衣子がこれ以上引かないことを分かっているのだ。代表者としての責を背負い込んだ芽衣子は、ひたすらに頑固だった。
 自らにどれだけの危険が降りかかろうとも、後ろに控えている咲音の命運のために決して臆しはしない。芽衣子はまさに、咲音の矛であり盾であった。
 青年とて並び劣らぬ意志の強さをもって、芽衣子に仕えているのだが。家臣である以上、青年の方が引かねばならない。
 主を立てておくのも家臣の役目だ。青年は仕方なしに、「はいはい、ごめんなさい」と答える。
 謝ったのになぜかまた叩かれた。
 くすくすと笑い声が聞こえ、二人は同時に玄関の方へ視線を向けた。主を笑うという無礼が許される人間は、この屋敷に一人しかいない。
 果たして、二人のよく見知った顔の男性が、優しげに眉を垂れ笑っていた。
「芽衣子様、魁人、お帰りなさい。相変わらず仲がいいですね」
「尚人」「父上」
 二人が名を呼ぶと、尚人は嬉しそうに笑みを深めた。年齢相応に刻まれたしわの中で、笑みによって出来るしわが一番深かった。
 周りの使用人が黙々と頭を下げる中、彼だけが正面から迎えているのは、彼が最も信頼されている家臣の一人だからに他ならない。芽衣子は尚人の行動を咎めるどころか、笑顔で受け入れた。
「ただいま。久しぶりね……前に来たのはいつかしら」
「半年前ですよ」
 この屋敷に立ち寄るのは、都に来たときだけだ。以前来たのは王の誕生祝いの折だった。
「また綺麗になりましたね」
「ありがとう」
 肩を叩き合い、再会の喜びを確かめ合う。
 まだ魁人が尚人と共にこの屋敷で暮らしていた頃は、芽衣子も足繁く通いつめてきたものだった。大名行列を作るのは面倒だからと、いつも単身でこっそりと。
 尚人はその度にしからず芽衣子を受け入れた。家臣としての分別がついてくると、魁人の方が二人の態度をしかったほどだ。だから芽衣子にとって尚人は、年の差こそあれどいたずら仲間のようなものなのであった。
 じゃれ合う姿は実に親しげで、それを面白く思わないのが、魁人だった。
「父上、お久しぶりです」
 二人の間を裂くように、魁人がずいと言葉を割り込ませる。あからさまに不機嫌な表情を、尚人に向けた。
「久しぶり、魁人」
 尚人はにっとりと笑って両手を挙げてみせる。「別に取ったりしないよ」と揶揄するように言うと、魁人は顔をしかめてそっぽを向いた。子の気持ちを知っている親は、にこにことその様子を堪能する。
 惜しいことに、尚人はそれを続けているわけにもいかなかった。家臣として、主をいつまでも外に立たせておくわけにはいくまい。
 尚人が屋敷に視線向けると、中の者が合図を送ってきた。準備は当に整っているようだった。尚人は芽衣子に悟られぬよう素早く視線を戻し、深々と礼をした。
「さあ芽衣子様、どうぞお上がりください」
 尚人が言うと同時に、控えていた使用人たちが一斉に言葉を復唱した。いくつもの声が左右より押し寄せ、それが芽衣子に主としての威厳を思い出させる。
 芽衣子は背筋をぴんと張り、有無を言わせぬ当主の顔つきになった。やや遅れて、魁人も芽衣子に使える第一の将軍としての顔になる。
 散々家臣の前でじゃれあっていたところで今さらでもあったが、この二つの顔が彼女の魅力でもあった。年相応の無邪気な顔も、責任者としての厳格な顔も、家臣を思うが故のものだと知らぬ者はない。
 両方があるからこそ、誰もが彼女の人間性を愛し、信頼してついていくことが出来る。
 尚人は横に引いて主に道を譲る。気持ちを切り替えた芽衣子は、尚人が見えていないかのようにまっすぐ玄関へ向かった。
 咲音の誇りである君主の姿がそこにある。
 彼女のまぶしさに、魁人は後ろに続きながらも、思わず小さな敬礼を送った。

 座敷には空の皿が散乱していた。つい先ほどまで華やかに並べられていた、芽衣子を歓迎する料理の果である。今や、硬い骨だけが残された戦場跡のようであった。
 半年振りの主の来訪に、屋敷は沸いた。もちろん数々の料理が運ばれたが、芽衣子がすべての使用人に出席の許可を与えたため、座敷は人でいっぱいになり、料理もあっという間になくなってしまった。座敷からあふれた使用人たちは、芽衣子と言葉を交わした後、各々の仕事場へと散っていった。
 残った者たちも、尚人が人払いさせたためにすぐ退散していった。人のいなくなった座敷は、むやみにでかい空洞をさらしていた。
 座敷に残されているのは芽衣子と魁人、尚人と他数人の家臣たちだけであった。宴の余韻で顔を赤らめてはいても、しっかりと腰を落ち着けて上座の芽衣子に視線を注いでいた。
 尚人が何のために人払いをしたのか、その場にいる誰もが分かっていた。
「芽衣子様がこちらへいらしたということは」
 最初に口を開いたのは、尚人だった。このような場では尚人が仕切ると、暗黙のうちに了解されていた。
「美土里の国との戦を、ご決断なさったのですね」
 芽衣子が大きくうなずく。覚悟していたこととはいえ、家臣の誰かが生唾を飲む音が聞こえた。
 どちらを選ぼうと、咲音の地の命運は似たようなものであった。戦えば美土里の国と刀を交えなければならないが、戦わなくても他の地方に占領されるのが関の山。
 咲音の地に生まれ育った者として、自分たちで戦い抜いて守りたい。可能性は低くとも、それが一同の思いであった。
 それなのに、いざ現実を前にすると――その重さにひるまざるをえない。
「美土里の国が不穏な動きを見せていることは、皆も承知のことであると思う」
 芽衣子の代わりに、魁人が説明を受け継ぐ。いかなる場にも芽衣子に連れそう魁人は、すべての事情を知る唯一の家臣だ。
「美土里の国は軍国ではないとはいえ、大国だ。隣接する我が咲音の地が迎え討たないわけにはいくまい。そうなれば、都にいる分隊の力も借りなければならない。あるいは――」
 魁人はそこで言葉を切った。あるいは、という可能性を示しておきながら、その先に続く事態が必ず起こるであろうという、覚悟の表れだった。
 その覚悟の強さが、開かれた青い目の中に宿る。
「咲音の者、すべての力を借りる戦いとなる。そのつもりで話し合いにのぞめ」
 魁人の目を見て、否と答える者はいなかった。彼の目には他を追従させる力があった。
 何より、魁人の前で背筋を伸ばして凛とたたずんでいる芽衣子の気迫が、そうさせなかった。青と赤の強固な柱が、咲音を支える背骨でもあるのだ。
 だがその柱を、尚人があえて叩く。
「私の見ましたところ、勝つための策はありませんが」
 誰もがはっと息を飲む。魁人でさえも、表には出さなかったものの、拳を強く握り締めた。
 勝機がないことは分かりきっていた。兵力が違いすぎる。美土里の国は豊富な物資があるため、軍には体力があり、長期戦を圧倒的に得意とする。
 それを破るには美土里の国の物資を断つか、短期集中決戦を狙って兵全体を叩くのが望ましい。前者には複雑な地の利が必要で、後者には強力な攻撃力が必要となる。
 美土里の国の隣で、辺境である咲音の地には、そんな作戦がとれるはずはなかった。
 魁人は、芽衣子が戦うと決めたのなら、勝つ気でいた。しかし、かつて国王軍の名将として活躍した尚人に問われると、その問いは大きな壁となって魁人の前にせせり出てくる。
 即座に言い返せない魁人をあざ笑うかのように、尚人は肩をすくめる。
「でも絶対無敵の策など存在しませんから、運命のいたずらでもしかしたら――」
 尚人が本気で言っていないことは明らかだった。そんなものは策ではない。考えることから逃げたあきらめだ。一方で、策がないのならそこに逃げ込むしかないのも事実だ。
 逃げるのはごめんだった。けれど策もなかった。魁人には、主に付き従い突き進む、愚かなまでの覚悟しかなかった。
 再び拳を強く握り、顔を上げる。その覚悟だけで魁人が尚人に反論しようとしたとき、もう一つの壁が立ちはだかった。
 視界をさえぎる影は、よくよく見ると、身を乗り出した芽衣子の背中だった。
 今にも飛びかかりそうな芽衣子の姿勢に、戦場のような緊張感が走る。一瞬刀に手を伸ばす者があったくらいだ。尚人だけが、平然と口元に笑みを浮かべている。
「そんなくだらない答え、私が叩き斬ってやる。ふざけてないで、真面目に作戦を立てなさい」
 彼女が今持っているのは護身用の太刀くらいであったが、彼女の気迫ならば本当にどんなものでも叩き斬れるように思えた。
 尚人はその気迫にさらされてなお、嬉しそうに表情を緩める。通常であれば臆してしまいそうなものだが、魁人もまたその気持ちが分からなくもなかった。
 自らの従う主が、いかなる壁に阻まれようとも勢いを失わない姿は、家臣として何よりも誇りに思えることだった。
「その答えがちゃんと聞けて安心しました」
 試していたことを隠しもせずに尚人は手を叩く。
 芽衣子も少しだけあきれた様子で「いつもながらに意地が悪いんだから」と呟いた。芽衣子は尚人の意図を最初から理解していたらしい。
 とんだ茶番だ。魁人は苦笑せざるをえなかった。
 そして、その茶番に口出しできなかった自らの至らなさもまた思い知る。
 覚悟はあったのに、すぐ行動に移すことができなかった。戦場ならば死んでいてもおかしくない出遅れである。
 尚人のことであるから、家臣に対する戒めの意を込めた茶番でもあったのだろう。主の覚悟に見合った覚悟を家臣もまた持っているか、尚人は暗に問いかけていた。
「さて、ここで話すのも何ですから、場所を移しましょう」
 尚人が声をかけると芽衣子が立ち上がる。それに続いて魁人が立ち上がると、全員が立ち上がった。
 それを合図にふすまが開く。その奥に伸びる廊下の先に、いつも重要な話し合いをするための部屋がある。これからやっと、本当の作戦会議が行われるのだ。
 尚人のおかげで、中途半端な顔をしているものはなかった。皆が戦場におもむくような険しい顔つきで、座敷を出る。
 魁人はふすまの前で立ち止まり、尚人を振り返った。尚人は魁人の視線に気づくと、いたずらっぽく片目を閉じる。
 いかなる状況でも家臣をまとめてみせる男。まさに部下をまとめる者の鏡だ。
 魁人は、主の横に並ぶにふさわしくなるより先、この男に並ばなければならぬと思った。

(後編に続く)
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