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2009-12-13 (Sun)
星歌ユズ♀/時音タク/学園もの

 「終わらないよお!」提出期限直前、ユズが予算案と戦っていると、隣にいた生徒会長のタクが「あと3分ですよ!」と厳しい声で叱咤してきた。
 ちゃんとハッピーエンド。結論:タクは天然たらし

決心がついたら「続きを読む」から本編へどうぞ。
「終わらないよお!」
 まったく埋まる気配のない書類に、ユズは心の中で泣き叫んだ。ここが生徒会室でなければ実際に口に出していたことだろう。
 目の前にあるのは部活動の予算案。提出期限はあと5分。一方の書類はまだ半分も埋まっていなくて。
 早く手を動かさなければならないのに、ユズは頭の中がだんだん真っ白になってきた。隣には時間に厳しいことで有名な高等部の生徒会長が控えていて、さらにユズの心を圧迫する。部活動は中高一貫で行われているから、予算まとめは高等部の生徒会が一括して行っているのだ。
 これがまだ気の知れた中等部の生徒会であったら……とユズは思うが、今さらそんな妄想は何の役にも立たない。けれどパニックになりかけた頭には余計なことばかり入ってくる。
「あと3分ですよ!」
 厳しい叱咤の声が聞こえてきて、ユズはびくっとなった。男子高校生にしては高い声だが、鋭い声色には十分な気迫が込められている。
「生徒会室の時計で18時になるまでに提出できなければ、予算は出しません!」
 予算案提出の際の注意事項が繰り返される。その言葉は決してただの脅しではなかった。学校側も、膨大な予算を食う部活動からはお金を削りたくて仕方がないのだ。
 ユズの所属する吹奏楽部も、楽器の維持費で年々膨大な予算を使う。けれど生徒たちにとって、予算がでないことは部活動ができないことを意味していた。
 自分のせいでみんなが部活動ができなくなる。そう思うと、ユズの目から涙が流れてきた。もともと会計でないのに直前になって予算案を押しつけられたユズにとって、この事態は災難以外の何物でもなかったが、責任を感じざるを得なかった。
「あと少しで18時ですよ、早くしなさい!」
 再び一喝されるが、ユズは涙が止まらなかった。手が全く動いてくれない。制服の裾で涙を拭っても、次々に溢れてくる。
 ガタンと音がして、ユズはさーっと血の気を失う。ユズの隣で壁に背を預けていた生徒会長が動いた。「時間です」そう宣告する声が聞こえてくるような気がした。
 ところがガタガタという音は一向にやまない。一体何をしているのか気になって仕方なくなり、ユズはこっそり後ろを振り返った。
 生徒会長の頭がいつもより上の方にあった。小柄な生徒会長はユズと比べても10センチくらいしか変わらなかったはずだが。彼はなぜか椅子の上に乗っていた。
 さらに不思議なことに、その手には生徒会室の時計があった。その時計の針を、生徒会長は10分「戻す」。
 ユズはビックリして、視線を戻すことも忘れていた。ユズの視線に気付くと、生徒会長は悪戯っぽく笑う。
「提出期限は、生徒会室の時計で18時ですからね?」
 胸の奥の方から熱いものがばっとこみあげてくる。どうにか抑えようとしていた涙が、滝のように出てきた。あまりに勢いが良すぎて目が痛いくらいだ。
「あ、ありばば……」
 感謝の言葉を述べようとしても上手く言葉にならない。書類に向かおうとしても、涙で何も見えない。そもそも、びしょ濡れになった手では、ペンも持てなかった。
「あー、会長が女の子いじめてるー」
 部屋の入り口側で他の部の対応をしていた生徒会員が、はやしたてるように顔をのぞかせる。他の部はもう帰ったらしく、生徒会室は一気に静かになっていた。
「人聞きの悪いことを言うな、シン!」
 生徒会室の入り口側と奥を遮る棚から身を出しているシンに、生徒会長が先程まで乗っていたパイプ椅子を突き出す。シンはそれを受け取って大人しく引っ込んだ。
 ユズは少し心を落ち着けると、深呼吸をして涙を拭う。生徒会長の用意してくれた時間はいつまでもあるわけではない。絶対に間に合わせるという心意気でペンを走らせる。
 ユズの中で、責任感は重圧でなくやる気に変わっていた。今自分の書いている予算案は、部の色々な人を支えているだけでなく、生徒会の色々な人に支えられてもいる。
 一人で頑張っているわけではないという思いがユズの背中を押す。
 またじわじわと涙が出てきそうになったけれど、ユズは拭うこともせず、ひたすら書類を埋め続けた。生徒会室の時計の針が18時を差すまさにその直前に書き終わって、生徒会員の人たちが「頑張ったな」と頭を撫でてくれたあと、ユズは結局声をあげて泣いてしまった。


Fin.

~余談~

「タクが譲歩してあげるなんて珍しいな」
 集まった予算案を束にまとめながら、栄一が呟く。一枚一枚部の名前を確認して、文化部だけにまとまっていることを確認すると、シンに手渡す。
「あの子いつも予算会議で来る子と違ったからな」
 シンは予算案の金額の合計が正しいか暗算で確認しつつ口を挟んだ(フラッシュ暗算ができる彼に電卓というものは必要ない)。記憶力の良い彼は、膨大な部が集まる会議でも、各役員の顔と名前を全て把握している。
「たぶん押し付けられたんだろ、あそこの会計会議の集まりも悪ぃし」
 それに気づいていたのはむろんシンだけではない。タクはさすがに全員の顔を覚えているわけではなかったが、態度に問題がある吹奏楽部の会計については、よく目に付いていた。
 まだ中等部とはいえ、会計は学校からお金を預かる重要な立場だ。代理の人間を出して会議をやり過ごす場面も多々あったが、彼らは意外と自分たちが見られているのだということを知らない。
「もちろん、僕だってただ見逃したわけじゃないさ。吹奏楽部ペナルティは科すよ」
 確認が終わった書類を一つずつクリアファイルに収め、タクが小さく笑う。
「ただし個人的にね」
 その笑顔に言い知れぬものを感じて、栄一は顔を引きつらせた。シンは何故か楽しそうに口笛を鳴らす。
「温厚な生徒会長を怒らせるなんて可愛そうな部ね」
 タクが整理し終えたクリアファイルを取り上げて、一冊のファイルにまとめながら、マコが他人事のように言う。実際自業自得なのだから同情するつもりなどさらさらない。
 どんなに上手く取り繕うとしても、ぼろに気づく人間は必ずいる。適当にやり過ごし続けて痛い目を見るのは結局自分なのだ。先に苦労するか、後に苦労するか、それだけの違い。
「さて、一区切りついたらお茶でも入れようか」
「そうしましょう、入り口でうろうろしている眼鏡の子はどんなお茶が好みかしら」
 そうしてお礼を言いに来たユズを囲んで、生徒会室にお茶の香りがあふれるのは数分後のこと。
 さらに、生徒会長からの鉄槌を受けて、吹奏楽部の会計が改心するのはまた数日後の話。
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