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2008-12-30 (Tue)
KAITO/MEIKO/和音マコ/エセ戦記/和風ファンタジー

 閼伽の国の辺境にある、咲音の地。隣国との戦争の危機に瀕する中、当主の芽衣子はあえて戦いの道を選んだ。愚かな選択であっても、魁人は幼い頃から共に育った主の決断に従い、ついていく。
※わんだらPの「愚足武者」をイメージして書きました。1ページに収めるには長いと感じたので、前後編にしてみました。

前編から先に読んでください。
「続きを読む」から本編へどうぞ。
 一升瓶を片手に提げ、陽気に歌いだす声。酒は入っても無駄に美声だけは健在で、響き渡る歌声にどこからか合いの手が飛んでくる。
「いよ! 世界一の美声!」
「ありがとー!」
 あさっての方向に向かってぶんぶんと手を振り、聞こえるかも分からない返事を返す。年頃の娘だというのに、はだけた着物がさらに乱れていくのもおかまいなしだ。
 目の前にある光景に、魁人は思わず手のひらで目元を覆い隠した。完全な酔っ払い。それが、咲音の当主の変わり果てた姿だった。
「めーちゃん、飲みすぎじゃないか?」
 部屋には気の置けない家臣しかいないとはいえ、ここは都。外からいかなる刺客が現れてもおかしくはない。もしものために魁人が酒も飲まずに控えているわけだが、当の本人が気をつけてくれなければどうしようもない。
「魁人も飲めばいいじゃないの~」
 魁人の気苦労も露知らず、芽衣子は一升瓶を顔面に押し付ける。顔をそらしたため、瓶の口は魁人の頬に突き刺さった。的を外れたことも気にせず、芽衣子はそのまま瓶を傾ける。酒が魁人の頬を伝った。
「こら、冷たい!」
「魁人の誕生日ろくにお祝いしてあげられなかったからー、今祝ってあげるよー!」
 魁人の誕生日は半年前だ。一体いつの話をしているのやら。
 おそらく王の誕生日とかぶっているせいでいつもおざなりにされているからだろうが、魁人にとって誕生日など欠片もありがたみがない。王の誕生日の前後に生まれた子の多くは、王にあやかって同じ誕生日にさせられてしまうからだ。
 だから魁人と同じ日に生まれた子供はやたらと多くいる。魁人も、本当は誕生日より数日前に生まれているのだ。
 頬から酒を飲ますつもりか、笑いながらなおも瓶を傾ける。魁人の着物は酒でびしょ濡れになっていた。アルコール臭がむっとわき立つ。
「あーもう」
 さすがにその臭いには耐えかね、魁人は芽衣子の手首をつかんだ。酔いが回っているせいが反抗してくる力はないが、じっとしてくれないので瓶を奪いにくい。芽衣子が腕を揺らすたびに、残りの酒が瓶の中でたぷんと鳴る。
 なかなか苦戦していると、芽衣子の手から瓶が奪われた。「あー!」とわめいて、芽衣子の手が抵抗するが、魁人に抑えられているため、無駄な努力に終わる。
「こんなに酔われて」
 酒瓶を芽衣子から取り上げた酒瓶を胸に抱きかかえながら、少女は呆れた声を出す。
「咲音の地に戻ったら大きな戦いになること、分かっていらっしゃるでしょうに」
 少女はその場に腰を下ろし、瓶を脇に置く。長いひとくくりの髪の先が床についた。
 少女は持っていた布を魁人の服に当てた。強い臭いは相変わらずだが、冷たさはいくらかましになる。
「ああ、眞子、すまない」
 芽衣子の腕を捕まえているせいで手が使えないとはいえ、魁人は申し訳なく思う。このまま拭かせるのもためらわれ、片手を開けて布だけ手に取ろうとするが――眞子が手を引っ込めた。魁人の手が思わずして虚空をつかむ。
 きょとんとして魁人が下にある眞子の顔をのぞき込むと、眞子は強い眼差しで魁人を見上げていた。
「貴方も貴方です」
 布が強く生地に押し付けられる。じわりと水分がにじみ出た。
「何故あのような作戦に――」
「らーに仲良くやってんろよー!」
 気をとられた隙に魁人の手から抜け出した芽衣子が、眞子にのしかかる。魁人が空になった手のひらを見て、「あ」と漏らすが、時既に遅し。
 酔っ払いの弛緩した身体を支えることが出来ず、眞子は芽衣子に押しつぶされる形となった。やはり意識のはっきりしている人間よりも重いのか、決して非力ではないはずの眞子が下でうめいている。
 何とか脱出を試みる眞子を、芽衣子が腕の監獄の中に閉じ込める。きつく抱きしめられて、眞子はすっかり動転していた。
「め、め、芽衣子様!」
「いーじゃない、減るもんじゃないしー」
 確実に精神は磨り減る気がする。とは思ったが、酔っ払いに何を言っても通じないことは分かっている。
 魁人は「めーちゃん、起きなさい!」としかりつけながら、肩をつかみ、強制的に芽衣子を抱き起こした。よほどしっかり抱きしめているらしく、眞子の身体もついでについてくる。自分でしっかり立つことも出来ないくせに、無駄なところには力が有り余っているものだ。
 仕方なく魁人は芽衣子の指を一本一本はがし、眞子の身体を解かせる。「邪魔しないでよー」というわめき声が上がるが、「はいはい」と軽くあしらう。
 片手が取れたところで、眞子は自分から脱出した。ただし勢いあまったしまったらしく、床にごろんと転げ落ちる。鈍い音が畳に響いた。
「大丈夫か?」
 苦笑しながら聞くと、眞子は赤らめた頬をそむけながら、「問題ありません」と答えた。多少息が上がっているのは隠し切れない。魁人が気づかないふりをして「そうか」と背を向けると、眞子は乱れた着物をそそくさと整えた。
 さて、問題はふてくされた顔をしているご当主様だ。魁人はなるべく優しい声の調子を作って「水飲む?」と聞いてみるが、芽衣子はふてくされた様子で頬を膨らまし、首を横に振った。
「外行く」
 口を出たわがままに、魁人は眉間にしわを寄せた。子供をあやすように背中を叩きながら、額をつける。
「都の夜は危ないよ」
 さすがに声を低くし、真剣に言い聞かせる。いつもならばここまで警戒することもないのだが、今回ばかりは戦の都合での来訪だ。見知った顔ばかりの咲音の地と違い、いつどこに美土里の国の者が紛れ込んでいるとも知れない。
 尚人をはじめ都にも兵はいるが、兵力のほとんどは咲音の地に残してある。大事な時期だけに、下手な動きはしたくない。
 それでも、芽衣子は平然と言うのだ。
「魁人がいれば平気でしょ」
 信じる、というより疑う余地すら持たない、まっすぐな目。家臣としての絶対の信頼。
 これ以上の喜びがどこにあるだろうか。魁人は手の甲で口元を押さえたが、頬が緩むのを止めることはできなかった。
 結局魁人も、芽衣子にはめっぽう弱いのだ。
「仕方ないな」
 折れるのはいつも魁人の方で。
「魁人様!」
 生真面目な眞子が叱咤の声を上げる。魁人は肩越しに振り返り、情けない笑顔を返した。眞子が困ったように眉を下げる。
「芽衣子様のためならば、どうあっても行くつもりですか」
 それが今外に出ることに対しての言葉でないことは、分かっていた。震えた声が、魁人にそれ以上のものを訴えかけている。
「無謀です!」
 眞子は先ほどの作戦会議の折のことを言っているのだろう。眞子はまだ若いとはいえ、鉄砲部隊の責を任されている。会議への参加は初めてだったが、先ほどの話し合いにも出席していた。
 そのときも眞子は大反対し、魁人が無理に押し切った。尚人の賛成でその場は収まったが、眞子自身が納得し切れていないのも無理はない。
 魁人にとって芽衣子が主であるように、眞子にとっても魁人は主なのだ。
 魁人はしばらく黙り込んだまま、芽衣子の腕を肩に回し、立ち上がらせた。力の入らない四肢が魁人に寄りかかる。
 酔ってはいても眞子が何を言わんとしているかくらいは分かるのだろう、芽衣子も何も言わなかった。代わりに魁人の帯を強く握り締める。
 芽衣子の肩を抱き、魁人がようやくポツリと言う。
「無謀など立ち止まる理由にならない」
 魁人は振り向かなかったが、その口調から、魁人がどれだけ決意を決めているかが想像できた。
 生半可な問いなど意味がないのだ。当に前しか見ていない魁人にとって、そんなものは考えるにも値しない。
 魁人は芽衣子の身体を支えながら、ゆっくりと足を前に出した。眞子はどうすることもできず、視線だけで二人の動きを追う。魁人はそのすがりつく鎖のような視線から逃れるために、座敷を出るとすぐに廊下を曲がった。
 眞子だけでなく、他の魁人を慕う部下もまた、彼を止めるのだろう。魁人とて、仲間が大切でないわけではない。けれど、魁人を縛るものは主だけでいい。
 魁人の服をそっとつかむ手。それだけが、唯一魁人が振り切れない鎖だ。

 雲ひとつない快晴であった。鳶が一羽、悠々と空を渡るのがはっきりとうかがえた。高い声が、はるか下の地面にまで届いてくる。
 前方、美土里の国の数万の兵が控えている様も、実によく見える。荒野を埋め立てるように人間がひしめいている様は、圧巻だった。
 こちらの兵はせいぜい数千。上から見れば、数の差は歴然としているだろう。無意味なことと分かってはいても、魁人は鳥の言葉が解せるならば、ぜひとも上を行く鳶に感想を聞いてみたかった。
 聞いたところで何も変わらない。情勢がどうであろうと、勝たねばならぬのが武士の定めだからだ。
 向こうはどうやら既に戦いの準備が整っているようだった。緑色の旗が掲げられ、風で大きくはためいている。一つ突き出している頭は、馬にまたがった敵将のものであろう。鉄砲部隊の後ろ、軍の中ほどで、長い紫の髪をなびかせている。
 生来の地位はなくとも、武勲だけでのし上がり、将軍の座を手に入れた男。一筋縄にいくはずがなかったが、魁人は恐れるどころか高揚を抑えられなかった。
 魁人は、脇に並んでいる愛馬の鎧を叩いた。一声いななくと、主の騎乗を待って、微塵も動かなくなる。
 魁人は手綱を握り、あぶみに足をかける。地を蹴って一気に背にまたがる。背筋を伸ばすと、向こうも魁人が将軍だと理解したのだろう、人影が波のように揺れた。
 魁人のいる位置は兵の最前線。敵陣まで阻むものは何もなく、戦場が一目で見渡せる。
 魁人は将軍でありながら、もっとも危険な位置に身を置いていた。
 後ろには芽衣子がいるはずであったが、開戦の号令は魁人に任されていた。今一番敵の近くにいる男こそが、一軍の長であることを知らしめるためだ。
 鳶が鳴いた。大きく響く、長い長い鳴き声だった。
 それが開戦の合図となった。
「行くぞ!」
 魁人が叫ぶと、鉄砲部隊が一斉に引き金に手をかけた。魁人の愛馬が地を蹴り、大きく前へ踏み出すと、いくつもの爆音が魁人の後を追った。
 美土里の国の軍も鉄砲をかまえていたが、一人駆けてくる将軍と――味方を一斉に砲撃した閼伽の国の軍に意表をつかれて、一瞬だけ動作が遅れる。
 合図と同時に撃った者もあったが、大半の者は出遅れた。まばらな砲撃は恐るるに足らず、魁人はためらわずに進撃していく。
 魁人に追いついた砲弾が、一斉に横をとおり抜けていった。一歩間違えれば、魁人は砲弾の雨に捕らえられる。鉄砲隊が撃ち違えても、魁人が手綱を乱れさせても命取りになる。
 それでも魁人は振り返らない。眞子の鍛え上げた第一部隊が手元を狂わせるはずがないと、魁人は確信していた。
 たった今、魁人の目元すれすれを横切った砲弾。当たるとは思わなかった。むしろ仲間が背後にいるのだということが、魁人をさらに加速させる。
 さすがは美土里の国といったところか、砲弾の乱れから数秒で立ち直り、敵将の合図で第一陣の残りが同時に撃つ。そこに先ほどまでの惑いは一切なく、敵ながら感心させられた。
 だがその一瞬で十分だった。魁人はわずかな手綱さばきで、わずかに薄くなった砲撃の層を潜り抜け、敵陣に到達していた。
 すぐに迎え撃とうにも、閼伽の国側の砲弾が次々と浴びせられ、前衛は身動きが取れないでいる。魁人はそのまま突進し、人の壁を馬の足で蹴散らして、刀を振るった。
 数万の兵に飛び込んだたった一人の武士。圧倒的な数の前に、自分が無力であることは百も承知だ。
 魁人はその弱さを隠そうともせずさらけ出し、あえて数の中に飲まれていく。刀が抜かれる音が、足元からいくつも鳴り響いてきたが、そんなものには見向きもしない。
 目指すのはただ一つ、一番高い山の頂。高貴な紫の鎧に包まれた、敵の将軍の首。
「走れ!」
 魁人が完全に敵の陣形を崩したのを見ると、芽衣子が高らかに叫んだ。魁人は雄叫びでもってその声に答える。
 同時に、閼伽の国の軍が、一斉に走り出した。
 数万の敵にたった数千で挑む――完全無欠の、愚か者どもが。

(魁人編、完)
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