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2009-01-03 (Sat)
がくぽ/KAITO/ニガイト/ミク/エセ戦記/和風ファンタジー

 負けても良い戦。その戦の将に選ばれてしまった岳歩であったが、彼には引けない理由があった。国よりも、名誉よりも大切なもの。未来という、たった一人の少女が、岳歩の世界のすべてだった。
※わんだらPの「愚足武者」をイメージして書きました。美土里の国の王はなぜかミクオではなくてニガイトのイメージです。

削った関係で中編を前編にねじ込みました。
魁人編(前編後編)から読むといいかもしれません。
「続きを読む」から本編へどうぞ。
 青い光が目の前を走った。岳歩は引くよりも討つ方が早いと判断し、鞘から刀を滑らせる。抜いた勢いを殺さぬまま繰り出された刀身は、岳歩の鎧を映し出しながら紫の残像となる。
 青い光と紫の光がぶつかり合った。甲高い音が響き渡る。その美しい音色とは裏腹に、刀を握る手には重い衝撃が伝わり、岳歩は両手で刀の柄を支えた。
 ふんばった足が何かを踏みつけ、バランスを崩しかける。岳歩は身を傾け斬撃をかわすと、足を後ろに引いて平らな地面に立つ。
 踏みつけたのは腕だった。緑の籠手をつけていたのでかろうじて美土里の国の兵だとは分かったが、その先に胴体がついていないので誰のものかはわからない。どうせ本体も生きてはいないだろう。
 辺りには無数の死体が転がっていた。しかも、美土里の国の鎧を着た者ばかりだ。最初にいた数万という数に比べれば微々たるものだが、この場に残っている者だけを見れば、立っている者より死体の数の方が多いように思えた。
「気の毒だな、大将! 味方はみんな逃げちまって」
 斬撃と共に、青い鎧の青年から現実が突きつけられる。もしかしたら彼は岳歩を動揺させるつもりで言ったのかもしれないが――むしろ岳歩はため息すら交じえ、平然と刀を受け流した。
 出撃前から想像できていたことだった。お上は始めからこの戦いに興味を持っていなかった。負けてもいいとすら思っていただろう。
 その状況下で、岳歩が質の良い軍隊を任されるはずがない。果たして、与えられたのはごろつきとさして変わらぬ傭兵ばかりの隊だった。命をかけてまで戦うどころか――敵軍と正々堂々渡り合えるはずもなかった。
 それでも咲音の軍が兵の数に怖気づけば、勢いで美土里の国が優位に立つことができたかもしれない。咲音の側が事前に美土里の国の情勢を聞き入れていたかは分からないが、咲音の軍の出鼻をくじく先方はまさに正しかった。
 咲音の将軍に気圧された兵たちは、あっさりと志気をなくした。将軍の後に続き咲音の軍が突入してくるころには、兵の数は半分に減り、その後も逃走する兵は耐えなかった。
 だが、お上の興味がなくとも、味方の兵が逃げようとも、岳歩は負けるわけにはいかなかった。だから戦うしかなかった。
「――関係ない。何があろうと、我は戦い続けるのみ」
 突き刺すように視線を鋭くし、きっぱり言い放つと、対する青年はわずかに口角を上げた。
「奇遇だな。俺も譲れないものがあるから、引くわけにはいかないんだ」
 怯まないどころか、青年は岳歩の視線を跳ね返すがごとく、真正面を見据え刀をかまえる。
 やりにくい相手と鉢合わせてしまったと、岳歩は密かに思った。あるいは青年も同じように思っていたかもしれない。視線の鋭さで、彼らは互いに強い信念を持っていることを見抜いていた。
 岳歩も噂では聞き入れていた。閼伽の国でも屈指の腕を誇る武士が、辺境の地で一人の少女に頑なにつき従っていると。
 青い瞳に青い鎧。閼伽の国の色に決して染まらぬ男は、咲音の地の若き当主、咲音芽衣子にしかかしずかない。
 風雅魁人。目の前の青年こそが、岳歩が話に聞いていたその武士に間違いないだろう。
 ――同じ武士として、岳歩はいつかは手合せしたいと思っていた。しかし、よりによって今回の戦いで巡り合うとは、運に恵まれていない。
 互いに譲れぬものを持っているこの戦い、余計な感情は相容れない。強い者と戦いたい武士の性も、この時ばかりは打ち捨てなければなるまい。
「我が道の前に立ちはだかるのならば」
「どちらかが倒れるまでやるしかないな!」
 魁人が先に地を蹴る。刀を振り上げて一瞬で間合いを詰める。
 刀と刀が交差する。高速で擦れ合う刀身が赤い火花を散らす。
 互いの信念が、激しく反発してぶつかり合った。

「よもや閼伽の国の辺境の地にも勝てぬとは! 地位のないお前に武勲を与えた王への侮辱――いや、反逆か!」
 眉間にしわが寄りそうになるのをこらえながら、岳歩は大臣の叱咤を受けていた。いっそ本気で怒声を浴びせればよいものを、大臣の口調には怒気が含まれていなかった。
 そこにあるのはわざとらしく用意された言葉ばかりであった。反逆という言葉を使うことができた大臣は、ひどく満悦そうに口元をゆがめている。
 事はすべて彼らの思うとおりに進んでいた。岳歩の軍は咲音の軍の快進撃にやむなく撤退し、事実上の敗北を喫した。それにより岳歩の信頼は大きく揺らぎ、大臣にとっては邪魔者の勢力が大きく削げたというわけだ。勝てば美土里の国にはくがつき、負ければ岳歩をおとしめることができる。大臣には勝敗がどちらであろうともよかったのだ。
 大臣の思い通りに動くことは癪であったが、それでも岳歩が戦ったのは、もちろん大臣のためではなかった。
 すべては主のため。岳歩には譲れない戦いがあった。
「所詮はあの姫様がお戯れに拾いになった男、姫様と同じで能がな」
「未来殿を」
 大臣の言葉は途中で打ち切られた。岳歩の声色が低くなる。
「侮辱する者は誰であろうと許すまい」
 大臣は思わず後ずさる。岳歩が足をつけている位置から大臣が立つ台座の前までは、とても刀の届く間合いではないが――まるで岳歩がすぐ目の前まで差し迫ってきているような気迫が、大臣を襲っていた。
 結果的に大臣の行動は正しかった。彼が言葉を切らなかったなら、岳歩が大臣を斬っていた。岳歩には、時の権力者に従い賢く生きるつもりはない。それがいつか我が身を焦がそうとも。未来に全力を賭ける価値は、他に変えがたいものだ。
 岳歩にとって主である未来の存在は絶対、彼女に反するものは、例え一国の王であろうとも反逆者になるのである。
「ぶ、ぶ、無礼……」
 興奮と恐怖の中で、大臣が言葉にならない声を吐き出す。岳歩に向かって指を突き刺すが、震えて方向が定まっていない。
 退場を命じられる前に、岳歩は腰を浮かす。まだ戦況の報告をしていなかったが、どうせ小言を言うのが本意だったのだ、後に回しても何ら問題あるまい。帰って早々無意味な叱咤を聞かされ続け、岳歩もいい加減飽き飽きしていたのだ。
 本当ならば、真っ先に顔を合わせるのは未来のはずだった。戦に負けてしまったことを一番最初にわびたかったし、何より岳歩が未来の顔を見たかった。
 未来のことを思うだけで、岳歩は表情を和らげた。その隙にようやく我に返った大臣が、一息ついてから、言葉を発した。
「もうよい、お前の降格は決定だ! さっさと下がって……」
 今度言葉を止めさせたのは、岳歩ではない。岳歩は不思議に思って、面を上げた。
 大臣も驚いた顔を隠せないようだった。座敷の上から――正確には、座敷の上にある御簾から――小さな手が伸び、大臣の袴のすそをつかんでいた。
 白く細い腕は、子供のものであることが一目にうかがえる。その腕の先についている顔を直に見たことは、岳歩にもほとんどなかったが、誰がそこにいるかは歴然としていた。
 美土里の国の次期王位継承者、つまり第一王子の、緑であった。
 男児という理由だけで、姉の未来を押しのけ王位継承権を手に入れた幼い王子。気弱ゆえに傀儡として権力を操れると、多くの権力者に群がられた無口な子供だということは、公然の噂だった。
 その王子が自分から行動するとは、非常に珍しいことだった。常に付き従って権力のおこぼれにすがっていた大臣でさえ、見たことがなかったのだろう。しばし呆然とし、言葉を失っていた。
 もう一度すそを引かれてから、大臣は上ずった声で「な、何でございましょう」と聞き直す。緑の腕がわずかに揺れるが、御簾越しではどのような動作をしたのか、見ることはできない。
 遠くに座る岳歩にはほとんど聞こえないくらいの小さな声で、緑はぽつりと言った。
「降格は……様子を見て、後でまた、戦況を伝えてもらってください」
 大臣はまだ呆然としながらも、「はい」と頷くしかなかった。

 物入れの戸を開ける。物置の中は日がほとんど当たらなかったが、かび臭さはあまりなかった。思い出の品が入っているからと、未来がこまめに片付けているおかげだろう。わざわざ角部屋を選んで建てたため、風通しも良い。
 右手奥には未来の品が、左手と手前側には家臣の品が納められている。大掃除に駆り出されたことがあるため、大体の場所は岳歩にも把握できている。右手の一番手前には、岳歩の物が置いてあった。
 表に出ていた小箱を開けると、上にあったのは可愛らしい模様のついた手ぬぐいに、使い方に困る綺麗な髪飾り。箱の中は未来からの贈り物ばかりで、岳歩にとってはどれも大切な思い出で埋め尽くされていた。大事なものをこの物置に収めるという未来に習って、岳歩の宝物はすべてここに収めている。
 緩やかな笑みを浮かべながら、岳歩は髪飾りを手に取る。明らかに女物であったが、岳歩の髪は綺麗だからと、未来が自分のお金で購入してきた。贈り物をつけた岳歩を想像し、胸をときめかせた主の顔を見れば、岳歩は受け取らないわけにはいかなかった。
 何度もつけてみろとせがまれたが、何かと言い訳をして結局つけたことがなかったが。……主の機嫌をとるためには、少々考えねばならぬかもしれない。
「未来殿! 神威岳歩、ただいま戻りました!」
 髪飾りを手に握り締め、岳歩は声を張り上げた。声が反響してこだまする。部屋の中にいれば岳歩の声が聞こえぬはずもないのだが、返事はない。
 未来の付き人である桃の話によると、未来は物置にいるとのことだった。部屋には姿が見えなかったので間違いあるまい。岳歩が帰ってくることを分かっていながら、部屋で待っていなかったということは、なかなか機嫌を損ねていると見える。
 だが返事すらしてもらえぬとは、岳歩の予想以上に未来の機嫌は悪いようだ。桃がやたらに気にかけていた理由がよく分かる。岳歩はひそかにため息をついてから、再び声を張り上げた。
「未来殿、ただいま戻りました! 未来殿のお顔を見せてください! この疲れ果てた精神と身体、未来殿のお言葉がなければ癒すことはできません! どうか声だけでもお聞かせください!」
 少し間を空けながら、何度も声をかける。一言叫び、未来の返事を待ち、静まり返った部屋の中で主の言葉を捜してから、再び叫ぶ。
 勝手知ったる物置の中、探せばすぐに未来を見つけることもできただろうが、岳歩は未来が自ら迎えてくれるのを待っていた。本気で怒っていて顔を見せてくれないつもりでも、岳歩は引かないつもりだった。
 やがて未来の方が観念したのか、右手の方からかすかな物音が聞こえた。とても小さな音だったが、岳歩は聞き逃さなかった。それが未来のたてた音だという確信を持ち、岳歩は「未来殿」と声をかけた。
 渋るうめき声の後、ポツリと続けられる言葉。
「ごめんなさいは?」
「申し訳ない」
 岳歩はためらうことなく、その場にひざをつく。長いすそがばさりと近くの箱を打った。未来からは見えていなくとも、深々と頭を下げた。
「どうして止めたのに、戦場へ行ったの?」
「断れば、未来殿の評判が悪くなるゆえ」
 岳歩の出陣に一番反対していたのは、未来だった。もともと争いを好まぬ姫だった。緑との王位継承権の争いもあっさりと自ら退き、緑派の人間から流される謂れのない風評にも黙して耐え、自分につらく当たった人間でも戦場で傷つけば、急いで看護に駆けつけた。
 岳歩も、幾度となく未来の慈愛に救われた。未来がどれだけ真剣に争いを憎み、人を愛しているかは、自身がよく体感している。
 だからこそ、岳歩は未来の身に降りかかる争いを、すべて引き受けなければならない。未来を陥れようと大臣が手を回してくるならば――岳歩はいつでも命を賭して身代わりになる。
 その岳歩の頑固さに未来が閉口し、口をきかなくなったところで、岳歩が無理やり出てきた形となった。未来の怒りが未だとけないのは無理もない。
 案の定、未来は納得しない様子で言葉をつむぐ。
「ろくな兵も与えてもらえなかったじゃない」
「いかなる状況でも関係ありませぬ」
 岳歩が再び即答すると、今度は大きな物音がなった。奥にある、ひときわ大きな包みが、動いた。
 未来の母が、未来へ着物を贈ったときの包みだと言っていた。権力争いに巻き込まれ、着物は当にどこかへ流れたが、包みだけでも未来の宝物には変わりなかった。
 そこは未来のお気に入りの隠れ場所でもあった。包みの裏から、緑色の長い髪が見え隠れしていた。
「味方もいない中、一人ぼっちで戦うだなんて、大丈夫なわけないでしょ!」
 泣き出しそうな声で未来が言う。彼女自身の人生と重ね合わせているのだろう。
 王子が望まれていた中で生まれた姫君、決して後ろ盾には恵まれていなかった。可愛がってくれた母君も緑を生んだ後に亡くなり、王や重臣は王子に付きっ切りとなったばかりか、反対勢力となることを恐れて未来を疎みはじめた。
 城の中でも彼女の味方は少なかった。未来は岳歩を失い、再び孤独になることを恐れていた。
 岳歩も、寂しい少女の心を知らぬわけではない。岳歩もできることならば常に未来と共にありたい。しかし、岳歩は未来を守らねばならぬから。岳歩は未来を守るためならば。
「未来殿がいる限り、我はいかなる場所にいても一人ではありませぬ」
 全霊をかけた忠誠心を込め、岳歩は拳をついて深い礼をした。未来が包みから顔を出し、こっそりと岳歩の様子をうかがう。
 頭を下げた岳歩に未来の様子は見えなかったが、未来には、差し込んでくるわずかな明かりの中でも、はっきりと見えていた。
 岳歩の髪で、何かがきらめいていた。拡散した光が、薄暗い壁に細かな粒を映し出す。小さいながらも、宝石のように美しい光だった。
 その輝きを放っているのは、いつしか未来が岳歩に買い与えた、髪飾りだった。
 面を上げた岳歩は、未来がこちらを見ていることに気づくと少し驚いた顔をし、恥ずかしそうにはにかんだ。
「未来殿にいただいたものの数々、素晴らしすぎて我には不釣合いかもしれませぬが、いつでも誇りに思いながら携えているのです」
 未来は包みの影から飛び出して、岳歩に飛び込んだ。部屋の隅に残っていたほこりがふわりと舞う。それが頭にかかるのも払わずに、未来は岳歩を強く抱きしめた。
「似合わないわけないよ。わたしが思ったとおり、すごく似合ってる」
 未来が頬を寄せると、頭に髪飾りがぶつかる。触れた岳歩の頬は熱かった。その熱は未来に抱きしめられた動揺によるものが大きかったのだが、未来は気恥ずかしさに耐えて髪飾りをつけてくれたのだと解釈した。
 本当は肌が傷だらけなことにも気づいていたが、未来に怒れるはずがなかった。すべては未来のためにやってくれていることなのだと、未来は十分理解していた。
 岳歩は未来の腕の中でしばし呆けていた。守るべき主の身体はとても細かった。しかし、抱きしめる腕はとても力強かった。
 岳歩は恐る恐る手を伸ばし、未来の背を抱き返してみる。未来の力はさらに強くなった。
「約束して」
 岳歩の肩に顔をうずめているため、未来の声はくぐもっていた。それでもかまわず、未来はすがるようにさらに顔をすり寄せる。
「何なりと」
 主の髪を優しくすきながら、岳歩は応えた。狭いところにずっと隠れていたせいで、髪の毛はくしゃくしゃになっていた。
「どこへ行っても必ず、帰ってきて。髪飾りが似合うように、今度はちゃんとおめかしもするんだから。その姿を並んで絵に残してもらうんだから。絵は代々大事にして、ずっと飾ってもらうんだから」
 自分は、女装姿の恥を代々さらされ続けなければならないのだろうか。岳歩は主の提案に意識が遠のきかけたが、約束だと言われてしまえば、しないわけにはいかない。
 ぎこちないながらも首を縦に振り、応える。少しだけ気に入らなかったらしい未来は、岳歩の背に回した手で背中を強く叩いた。岳歩は小さくうめく。
 岳歩にとっても、恥だろうが何であろうが、どうでもよくなってきた。主の近くにいられれば、それが一番幸せだ。
「うむ」
 今度はしっかりと返事をし、岳歩は大きく頷き直した。肩の上で、未来が満面の笑みを浮かべたのが感じ取れた。

(後編に続く)
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